【リメイク事例】:ライフプロテクト――保険情報を34のFAQで再設計する

情報の非対称性が大きく、制度が複雑な「保険」というドメイン。ユーザーは「自分にとって何が最適か」という曖昧な不安を抱え、事業者は複雑なルールを一人ひとりに説明するコストを抱えています。

茨城県水戸市を拠点に、不要な補償を削ぎ落とす「引き算の保険提案」を行う株式会社ライフプロテクト様のWebサイト構築にあたり、一石屋が採ったアプローチは、情報の簡略化(要約)ではなく、顧客の潜在的な問いを丁寧に洗い出し、それをユーザー自身が探索できる形に再構築することでした。

「毎月のブログ更新」を廃止し、蓄積された知見をFAQへ

リニューアル前のサイトでは、「毎月1記事のブログ執筆」が運用ルールとして課されていました。しかし、本業の傍らで良質な記事を書き続けることは、多くの地方企業にとって大きな運用負荷となり、内容の形骸化を招きがちです。

一石屋が提案したのは、この義務的なブログ運用の廃止です。ただし、これまで蓄積された知見を捨てるわけではありません。過去のブログ記事に散りばめられていた地域リスクの解説や実務的な保険知識を抽出し、「顧客が抱くであろう具体的な疑問」の形に変換して、34項目のFAQとして再構成しました。

6つのカテゴリーへの整理

34項目をそのまま羅列すると、ユーザーは迷子になります。そこで、検討フェーズや関心領域に応じて6つのカテゴリーへ分類しました。客観的なファクトが論理的に整理されていることで、サイト全体に落ち着いたトーンが生まれます。

今後は、この静的なサイトを情報の「本陣」として機能させ、日常的な情報提供やタイムリーな発信はSNSに役割を分担させる設計としています。

アコーディオンUIによる能動的な情報探索

34項目のFAQは、テキスト量としても相当なボリュームになります。すべてを最初から展開すると、ユーザーは視覚的に圧倒されて読む意欲を失います。

そこで各FAQに配置したのが、開閉式のアコーディオンです。

[ ユーザーの関心(カテゴリー)]
   ├ Q1. 自転車保険の義務化、他でカバーできている? [ + 開く ]
   ├ Q2. 火災保険で、水災補償を外しても大丈夫?     [ + 開く ]

このインターフェースには、画面をすっきり見せる以上の意図があります。

受動から能動への転換

すべての回答を最初から開示する「読ませる」形式ではなく、「クリックして開く」という一手間を挟むことで、ユーザーは自分の意思で情報を取りに行く体験にシフトします。人は自分で選んで開いた情報に対して、より高い集中力を示す傾向があります。

顧客と事業者、双方の負担を軽減

  • 顧客にとって:問い合わせる前に自分の疑問が言語化されているため、相談への心理的ハードルが下がります。
  • 事業者にとって:問い合わせの時点でユーザーが一定の前提知識を持っているため、初期説明の負担が減り、より本質的なコンサルティングに時間を使えます。

AI検索時代を見据えたセマンティック設計(LLMO)

1枚もののWebサイトが中長期的に機能する理由は、目に見えるUXだけではありません。

近年のAI検索エンジン(SearchGPT、Perplexity、Geminiなど)は、Webサイトの構造を直接読み取り、ユーザーの質問に対する情報源として引用します。分散していた情報を「34の構造化されたQ&A」として一箇所に統合することは、AIクローラーにとっても読み取りやすい設計です。

  • FAQPageスキーマの実装:機械が「これが問い、これが答え」と正確に認識できるマークアップを施しています。
  • 具体的な検索への対応:「水戸市 火災保険 水災」「自転車保険 重複 茨城」といった具体性の高いAI検索に対して、情報源として拾われやすい構造を整えています。

維持費を抑えたセキュアなシミュレーター

サイトには、ユーザーがスマートフォンで撮影した保険証券の画像をアップロードし、簡易診断を受けられるシミュレーター機能も備えています。

個人情報を含む証券画像を扱うには、通常であれば専用サーバーや有償のセキュリティパッケージが必要になります。しかし、クライアントにランニングコストを課さない形で実装しました。

Google Apps Script(GAS)による非同期連携

フロントエンド(JavaScript)とGoogle Workspace(GAS、Googleドライブ、スプレッドシート)を非同期で連携させる仕組みを構築しました。

ここで技術的な課題となるのが、近年のスマートフォンで撮影される大容量の画像データです。数十メガバイトの高解像度データをそのままGASへ送ると、転送量や処理時間の制限に引っかかります。

この制約に対して、以下の設計で対応しています。

  • フロントエンドでの事前圧縮:送信前にブラウザ側のJavaScriptで画像を処理し、診断に必要なテキストの視認性を保ったまま、送信に適したサイズへ自動的にリサイズ・圧縮します。ユーザーのパケット消費も抑えられます。
  • GAS経由でのセキュアな格納:最適化されたデータは暗号化通信でGASに送られ、ライフプロテクト様専用のGoogleドライブへ直接格納されます。
  • 管理連携:アップロードと同時に、診断データはスプレッドシートに同期され、管理者に通知が届きます。

専用サーバーやデータベースの維持費をかけずに、スマートフォン特有の大容量データを扱えるフローを実現しています。

5. Googleビジネスプロフィール(GBP)の最適化と運用支援

一石屋の関与は、Webサイトの納品で終わりません。地域密着型の保険代理店にとって、ローカルの顧客が最初に接するタッチポイントはWebサイトではなくGoogleマップであることが多いためです。

Webサイトのリニューアルと並行して、GBPの管理権限をお預かりし、プロフィールの最適化を行いました。

  • ローカルプレゼンスの向上:提供サービス、地域性、営業時間、Webサイト内のFAQと整合するビジネス情報を詳細に設定しました。
  • レビュー対応の自走支援:GBPにおいて価値ある資産となるのが、顧客からのレビューです。定型的な返信ではなく、寄せられた声に対して事業者としての姿勢が誠実に伝わる返答を、クライアント自身が運用できるよう継続的にレクチャーしています。

中長期的にブランドを保つには、外部に依存しきらず、クライアント自身が運用できる状態をつくることが重要だと考えています。

おわりに

34の問いを丁寧に洗い出し、6つのカテゴリーに整理する。この地道な作業を経て、ユーザーが自分のペースで情報を辿り、納得したうえで問い合わせに至る導線が完成しました。

「引き算」の提案が説得力を持つのは、その背後に十分な「足し算のファクト」があるからです。一石屋はこれからも、クライアントのビジネスを理解したうえで、それにふさわしい形へと再構築する役割を担っていきます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

『デザイン解体新書』管理人。すべてのモノの形や規格には、その時代の空気と「人間の欲望」という確かな理由が隠されています。単なる学術的なデザイン史ではなく、誰もが知るプロダクトの裏側に潜む史実を紐解き、「なぜ私たちはそれに魅了されたのか」というロジックを解体するWebメディアです。