伝統と現代の暮らしをつなぐWebサイトを目指して
福島県いわき市に鎮座する立鉾鹿島(たてほこかしま)神社。当神社がWebサイトをリメイクするにあたって何より大切にしたのは、単なる情報発信の道具にするのではなく、参拝される方々との温かい繋がりと、長年受け継いできた伝統や佇まいをそのままデジタル上に表現することでした。
【リメイクした実際のWebサイトはこちら】立鉾鹿島神社公式サイト

それを実現するために採用したのは、特別な専用システムではありません。Google Apps Script(GAS)やJavaScriptといった、一般的で身近な標準技術です。

身の丈に合った技術を丁寧に組み合わせることで、神社の日常に寄り添い、自分たちの手で末永く育んでいける「手作りのデジタルインフラ」をどのように構築したのか。サイトを上から順に体験していくように、その工夫の舞台裏をご紹介します。

ポイント1:「間」と「情緒」をコードで表現する(暮らしのしおり)
サイトをスクロールしていくと、まず現れるのが、日本の季節の移り変わりである「72候(しちじゅうにこう)」に基づいた「本日の暮らしのしおり」です。
開発にあたり、神社の禰宜様と相談を重ねる中で「よくある機械的なおみくじ機能はあえて避けよう」という方針が決まりました。単なるアトラクションにするのではなく、神社から参拝者への「ささやかな言葉のプレゼント」にしたいと考えたからです。
ここから出力されるのは、吉凶(大吉や凶など)の判定ではなく、誰もが細やかな日本の季節感に触れ、今日一日をちょっと前向きに過ごせるような温かい言葉です。

ボタンをクリックすると、まるで墨が和紙に滲んでいくように、ゆっくりと言葉が浮かび上がるアニメーションを採用しています。これは、効率化だけを優先しがちなデジタルの世界において、神社が大切にしている「間」や「静謐(せいひつ)さ」を表現する演出でもあります。
さらに、この「しおり」の閲覧を「1日1回限定」とする制御には、サーバーに無駄な負荷をかけず、ユーザーのパソコンやスマホに一時的なデータを優しく保存する技術(LocalStorage)を活用しています。「1日1回だけ、今日の言葉を大切に受け取る」という情緒的な体験と、技術的な合理性の両立こそが、神社の品格を守るためのデザインです。

ポイント2:複雑な計算を意識させない「優しいアシスト機能」(年回り判定)
続いて現れるのが、ご祈祷のお申し込みを検討されている方のための「年回り判定(厄年・方位除け調べ)」のアシスト機能です。
古来より伝わる「数え年」や、9年サイクルで巡る「方位除け」の判定は、自分で計算しようとすると極めて複雑で、戸惑う方も少なくありません。このシステムでは、性別と生まれ年をプルダウンから選択するだけで、今年(令和8年)の年回りが瞬時に表示されるようにしました。

難しい計算はシステムが裏側で優しく受け持ち、参拝される方にはただ「ご自身の情報を選ぶだけ」という親切な体験を提供する。これもまた、技術を使ったおもてなしの形です。
ポイント3:ミスの起きない「動的制御」と、本来の務めに専念するための時間創出(予約とスプレッドシート)
最後のご祈祷の受付・予約フォームにも、オペレーションのミスを防ぎ、誰もが安心して使える工夫が散りばめられています。
- 入力フォームの動的変化:七五三のようにお子様(兄弟姉妹)が同時に参拝されるケースでは、選択された人数に合わせて、画面の入力項目がリアルタイムに過不足なく変化します。これにより、正確なふりがなや漢字をスムーズに受け取ることができます。
- バッティングの自動ロック:移動を伴う「出張祭典」のご予約が選ばれた瞬間に、一般予約の受付カレンダーが自動的に連動してロック(非表示)されます。物理的なダブルブッキングをシステム側で100%遮断しています。
- マニュアル不要のスプレッドシート連携:Webサイトから送信されたデータは、外部のプラットフォームを経由せず、神社で普段から使い慣れている「Googleスプレッドシート」へとリアルタイムかつ双方向で連携されます。

この自動化がもたらした最大の恩恵は、数値的な効率化だけではありません。これまで宮司様や禰宜様が少なからず時間を取られていた「事務的な予約管理や日程調整、清算・仕分け処理」といった日々の負担を大幅に和らげたことです。
事務作業に追われる時間が劇的に減ったことで、参拝される方と丁寧に向き合う時間や、日々の神事の準備、杜(もり)や社殿の維持といった「神職としての本来の務め」に、より多くの時間を割くことができるようになりました。

世界的な共通インフラであるGoogleの基盤上に構築することで、長期にわたって安定し、神社にとっても運用の負担が少ない持続可能な仕組みを実現しました。大切な参拝者データを自分たちの手で100%管理・保有し、永続的に守り抜く(データ主権の確保)とともに、次世代へのスムーズな引き継ぎも可能にしています。

身の丈に合った技術で、自分たちの価値を表現する
立鉾鹿島神社のリメイクプロジェクトが示したのは、高価で複雑なシステムを導入しなくても、自分たちの業務や伝統を丁寧に紐解き、身近な技術を正しく組み合わせれば、本当に欲しかった「温かみのあるシステム」が作れるという事実です。
システムに合わせて自分たちを変えるのではなく、自分たちが大切にしたい伝統やフローに合わせて、技術を寄り添わせる。

この「業務の解体と丁寧な再構築」というアプローチこそが、デジタル時代において、組織の品格と大切な資産を未来へつなぐ、最も確かで優しい道となるはずです。

